生類の皆様へ

ゲームと百合の話

今年も百合ゲー×日本一ソフトウェアに期待

 日本一ソフトウェア……ゲームギョウ界の平和を守るべく戦い続けるぺたんこヒーロー……が、一昨年発売したゲーム『じんるいのみなさまへ』。Twitterに公式アカウントがあったけど、2020年突然「百合ゲー×日本一ソフトウェア公式」に生まれ変わり、同時に『夜、灯す』を発表した。これには中々心躍った。『夜、灯す』公式アカウントではないということは、このコンセプトで日本一ソフトウェアがさらにゲームを出してくれるのでは、と期待できる。あれから公式アカウントも小説を出したり定期的に動いているし、発売スパン的に今年も新たに一本くらい出てもおかしくはない。この期待を胸に、レビューとかを書く。

『じんるいのみなさまへ』

 初発表の時の、日本一ソフトウェアからほのぼの百合サバイバルゲームが出る、という情報も中々衝撃的だった。日本一ソフトウェアと言えば”トガッた””イロモノ”ゲームを出してくるというイメージもあった。絶対ほのぼのじゃねーだろ!みたいなノリでオタクがはしゃぐ。しかし、公開されたゲーム画面で集められた心無い悪評の方が記憶に色濃い。約束されたクソゲーだの、見えてる地雷だの、無責任に好き勝手言いよるわい。日本一ソフトウェアが確かに満場一致でめちゃおもろいゲームだけを出し続ける会社じゃないとしても、そんなことを言ってはいけない。確かにやや不安を呼び起こされるビジュアルは確かだったが、日本一ソフトウェアほどの規模の会社が”百合”をコンセプトにしたコンシューマゲームを販売するというのに感動し、予約。

 秋葉原のビジュアルは『AKIBA’S BEAT』の使いまわし。ADV形式のストーリーを読みながら進めていくサバイバル要素は、ゲーム性が非常に薄く、ほとんどサバイバルしなくてもクリアできる。これの2ヶ月前に『DAYS GONE』が発売されていたことに思いを馳せてしまう。他にもシステム面での悪いところは挙げていけばキリがなく、女の子でサバイバル♪という楽しみ方は、はっきり言って難しい。

 だがストーリーは中々いい。秋葉原以外全部沈没という中でも、日常系アニメのノリでたくましく生き抜く少女たち。特定のことを思い出そうとすると頭が痛くなるという不穏な描写もありながら、だんだんと世界の謎も明らかになってくるが、人死にも喧嘩もなく、女の子たちは最後までなかよしこよし。ほのぼの百合SFADVとしては十分楽しめる作品である。『少女週末旅行』や『リリィシステム』っぽい閉鎖的退廃的な世界に、いわゆる「きらら」っぽいノリを持ってくるというのも、ある意味独特で評価できる。それと地味ながら大きな評価点に、ある程度カップリングが固定されていることがある。そのへんをボカすと、俺嫁くんがワラワラと寄ってくる凡百のきらら作品のようになってしまう。百合が関わるコンテンツには結構大事なことだと私は思う。ちなみに主人公のカップリング相手はDLCでした。なんで。

 女の子にそれぞれ得意なことがあったり、探索に出る2人に特殊会話があったり、駅のロッカーに残された百合サブエピソードを解禁していく要素があったりと、ゲームで百合をやるという中で意欲的なところも多いが、いかんせんその完成度が低く、ややもすればストーリーの邪魔になるとも感じる。だが、他には無いという点でも、その将来性にも期待せずにはいられない。

『夜、灯す』

 2作目はうってかわって、純粋なADVになった。ホラーアドベンチャーというくくりだ。百合とホラーは相性がいいのかな?『クダンノフォークロア』や『零 紅の蝶』を思い出す。それに日本一でホラーと言ったら『流行り神』に『夜廻』と毎年出ている。実際このゲームも日本一毎夏恒例のホラー枠であったようだ。

 4,5箇所選択肢が表示されるところがあったが、ほぼ二択で間違えたらすぐにゲームオーバー。ストーリーは一本道で、ビジュアルノベルと言うべきだろうか。システム面は至って平凡……平凡すぎるくらいに平凡である。

 ストーリーもよく言えば堅実、悪く言えばこれも平凡である。女の子たちの絆を描いた話で、姉妹制度が登場するが、恋愛関連の話は無い。例えば志水はつみ先生の様な、同性愛への程よい距離感で描き出すADVと比べると、ちょっと物足りなく感じてしまう。したがってカップリングに関してもややぬるいという印象がぬぐえない。またホラー要素に関しても、はっきり言ってあんまり怖くはない。ただこれに関しては”ホラーはある種の舞台装置”としたうえで”「百合は好きだけどホラーは苦手」という方にこそ遊んでいただきたい”とはっきり言われているので、まあ仕方がないっちゃ仕方がないが、ホラー百合としてはどっちつかずかもしれない。

 声はフルボイスで、カオミン先生の美麗なイラストも素晴らしい。が、個人的には、ストーリー内で重要な立ち位置を占めるにも関わらず、お琴の演奏の差分が少ないことも残念であった。BGMやSEも、お琴にすればよかったのにとか思ってしまったり。「少女たちの絆と成長」という王道ストーリーは、間違いなく百合であるし、凡作と言うにはよく完成されているが、トガってはいない(せいぜいbad endの度に女子高生が無残に死ぬことぐらいか)。百合ゲー自体のマイナーさを感じ入る作品でもあった。

これからへの期待

 さてこれらのタイトルのプロデューサーを務めているのは菅沼元さんである。詳しくは記事を見てほしいが、日本一ソフトウェア社内でたった一人の百合の使徒として企画をし続けてくれている、まことの戦士である。百合とレズの違いについて熱く語ったり、男性を連想させるあらゆる単語を作品から一掃したりと、そのキモさアツさは筋金入りだ。この人がいてくれるなら、今年も百合ゲーが日本一ソフトウェアから出るかもしれない……!

 次はどこ開発になるか、まず気になるところである。『夜、灯す』のようなADVであれば、シナリオライターとイラストレイターが重要だろう。これはよい。『じんるいのみなさまへ』開発はアクワイア。であったが、開発チームは独立してデイジーワールドという会社を立ち上げた。今も『じんるいのみなさまへ』グッズを売ったりしている。もしかしたら、『じんるいのみなさまへ』の精神的続編を作るかもしれない。

  でもやっぱり、日本一ソフトウェア開発で見てみたい。魅力的なビジュアル、キャラクター、世界観。ちょっとボリュームが控えめでも、ぶっ刺さる人にはぶっ刺さる。そんなゲームを生み出す日本一ソフトウェアから、百合をシステムに絡めたゲームを、出して、欲しい欲しい欲しいーーー!『嘘つき姫と盲目王子』擦ってる場合じゃないよ!!

 まあどこがつくることになるにせよ、日本一ソフトウェアがもっと百合ゲーに力をいれてくれればいいなという気持ちだ。既存の百合ゲー2本には、日本一ソフトウェア特有の、新規IPに出すには二の足を踏みがちな値のついた初回限定版が無かった。がんばってくれ、菅沼さん、俺がついてるぞ。

 

菅沼さんのインタビュー記事

『じんるいのみなさまへ』は本当にハートフル日常系百合なのか、百合愛好家が菅沼Pを小一時間問い詰めてみた | インサイド (inside-games.jp)

日本一ソフトウェア『夜、灯す』×マンガ『繭、纏う』クリエイター対談――学園百合はこうして作られる - ファミ通.com (famitsu.com)